「就活のまえに ~良い仕事、良い職場とは?(中沢孝夫著、ちくまプリマ―新書・2010年1月)」は、就職を控えた学生向けに書かれた本。著者の実際の仕事現場への取材をもとに、半世紀近くの社会人経験が踏まえられた本で、学生への愛情を感じる本である。情報にまどわされずに、何を大事にすべきかを、考えさせる本であり、就職本としては、原点・基礎になる本である。
◆はじめに 働く場所は無数にありますが、その中には「良い仕事」と「良い職場」があります。長くそこで働くことが可能で、かつ人間として成長させてくれるところが、「良い仕事」であり「良い職場」です。しかし誰にでも共通する「良い場所」があるということではありません。また仕事それ自体は肉体的、精神的につらいことが多い職場であっても、仲間との関係や自分自身の積み重ねによって「良い場所」へと変化させることも可能ですし、あるいは逆に仕事に特別な意味を求めないという生き方もあります。しかし、社会で積極的に生きていくためには、なるべく仕事を「良い」ものにしたほうが楽しいといえるでしょう。(15p)
◆良い仕事とは?良い職場とは? 「良い」「悪い」は主観的なものですが、私がこの場で「良い」というのは、長期にわたって本人が努力する限り、成長を助ける仕組みを持っている職場のことです。企業が社会に提供している品物やサービスに、新しい価値を付け加えるためには人材育成は絶対条件です。 単純そうに見える仕事でも、決してそんなことはなく全体との関連のなかで、長い時間をかけることにより、達成感や感動を手にすることができたりします。それゆえ良い会社は、一年後、三年後、そして十年後といった時間幅での成長の目標を示すことができるのです。もちろん、自分で「こうなりたい」とか「ああなりたい」といった目標をもつことはもっと大切かもしれません。 またその良い職場には、必ずといってよいほど「目標となる人物」がいます。つまり「ああいう人になりたい」と思えるような先輩がいるものなのです。そういう意味で、大学生に向かって「即戦力」を求めるような会社はいかがなものかと思います。(17-19p)
◆内面からの動機づけ 人が一生懸命に働くためには、何らかの動機が必要です。それは「外から与えられる動機」と「自分の内面から生ずる動機」とに分かれます。「外から」というのはいうまでもなく、より多くの報酬や地位(出世)を与えられることになります。あるいは逆に、いいかげんであったり、会社に不利益を与えたりしたら罰せられます。こうした動機づけを「賞罰の規定」といいます。内面からというのは、マズローの説明で十分ですが、もう少し別の見方をしますと、大切な基本は「いいかげんなことはしない」「相手に不利益になることはしない」といったこと、そして「相手にとってよいこと」をすることのように思います。(190-191p)