フランスは企業研修(=インターンシップ)が日本よりも進んでいる。フランスで企業研修が一般化したのは、大学の大衆化によるものであるが、大学全入時代となった日本でも、フランスと同様にインターンシップの重要性が高まりを見せている。
私の大学の同窓生でもある五十畑浩平氏(中央大学大学院経済学研究科)の論文「フランスにおける企業研修(日仏経営学会誌、第26号、2009年より)」を引用させていただき、日本の大学教育、企業のインターンシップの在り方について考えてみたい。今、日本の学生に必要なのは社会との接点であり、大学内で真面目に勉強することだけが必ずしも学生のためにはならないことを考えるきっかけになるだろう。
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フランスでは大学の大衆化が進むにつれて、従来大学の出身者に相応するであろうと考えられた就職口は相対的に減少し、結果として大学教育への社会的評価や、学士の価値が下がることとなった。これらの状況に対し、大学は職業対応・就職対応を求められるようになり、伝統的な学問研究から実学へと移行し、職業教育化が推進された。この大学の端を発した実学重視へのシフトこそ、職業教育の一環で行われる企業研修が増加し、一般化した第一の要因と考えられる。他の要因としては、産官学の連携があげられる。政府は、職業教育制度に関する初の体系的な法律を1919年に制定し、職業教育の義務化や職業教育のための財源の確保、職業教育施設の設置などを行った。
≪企業研修の分類≫
今日行われている企業研修は、教育課程の中に組み込まれた必修の企業研修と、教育カリキュラムに組み込まれていない任意の企業研修がある。必修の企業研修は修学時期に応じて、発見研修、応用研修、終了時研修の3つに分類できる。
◆発見研修
学生が企業と初めて接点を持つことや、それを通して企業での生活、社内の組織、人間関係など職業をめぐる実情を知ることを目的としている。研修期間は1か月間で、教育課程の初期に実施される。職務の内容は、範囲の限定された簡素なものが多い。
◆応用研修
教育機関で修得した理論的知識や方法を、現場での業務を通して実践することを目的としている。研修期間は2~3ヶ月間で、教育課程の中間に実施される。企業側からの現実的な要求に対応した職務が割り当てられる傾向にある。この研修により、習得した知識を現場で応用するという専門的な教育効果と、コミュニケーション能力や協調性の向上をはかるという一般的な教育効果が期待される。
◆終了時研修
職務を自ら率先して遂行すること、段階的に職業生活へ移行することを目的としている。研修期間は3~6ヵ月間で、教育課程の修了時に実施される。終了時研修で行う職種は、実施する職務の観点からも、果たすべき責任感や自ら望む労働環境の観点からも、自らの希望に最もあったものでなくてはならない。そのため、この研修先の選定そのものが学生の就職にとっても、今後のキャリアにおいてもきわめて重要な意味を持つことになる。
≪企業研修の効果≫
◆学生側
・職に就いた際に求められる初歩的な知識や技能を習得できる効果が得られる
・就職する際に職務経歴として機能する
・雇用のミスマッチを防ぐことができる
・就職した際には、現場への適応を容易にすることができる
◆企業側
・補助的な労働力を安価で、雇用主の負担も少なく調達できる
・企業研修を通じて、モチベーションが高く、潜在能力の高い学生に出会うチャンスができ、学生を選抜する機会に恵まれる
・企業研修を正式採用に先立つ試用期間として活用することもできる
・企業研修を利用した企業のイメージアップを図ることができる
◆教育機関側
・企業研修を積極的に実施し、学生の就職を支援することで、就職に強いというイメージを学校に持たせることができる
・企業研修を通して企業との関係を含め、研修先を固定化することにより、企業が払う見習税(教育機関の財源の一部となっている)を効率よく徴収できる
・受け入れ先の企業から、実践の現場として固有の施設を提供してもらう、あるいは企業から設備や機材を教育機関や研究室に備え付けてもらうなど、物的な恩恵を受けることができる