今日、「就活廃止論」(PHP新書、佐藤孝治著・2010年1月)という本を読んた。採用担当者や、就職に興味がある人にはぜひ読んでもらいたい一冊だ。
本の題名は「就活廃止論」となっているが、著者は現行の就職活動のやり方に問題や限界を感じていて、その改善策を提案している。決して、就職活動そのものを否定しているわけではない。
著者の言うように、今まさに企業の採用活動のやり方は過渡期を迎えている。就職活動や採用活動の多様化が今後進んでいくのは間違いない。そういう多様化の中で、古い価値観を持った企業や学生は変わらなければならないと著者は唱えている。
ネタばれになるので多くは書かないが、著者は、まず現在の就職活動の在り方の問題点を指摘している。著者の言葉を引用してみる。
『「大きな会社に入れば安心だ」と「所属」に安定を求めてしまうと、成長スピードが鈍ってしまい、逆に安定を得ることができない。「利益を生み出す新しい仕組みを創る独自の能力やスキル」を持っていて、そのためのチャレンジをし続けている人だけが、結果として安定を得ることができるのである』
『いまや企業の発想は変わってしまったのに、学生やその親の意識が変わっていない。企業が人を判断する基準が変わってしまったのに、受験生とその親は相変わらず偏差値の高い大学に入れば、有名大企業という「出口」が待っていると信じ、そこに入るために多大な時間や金銭、労力を費やしている』
『「厳しい」就職活動というのは総論としてはその通りだが、超人気企業に受かっている人は、実はあまり苦労していないことが多い。(中略)まさに「受かる人は受かる」のである』
『変革を起こす資質を持った人材は、力を持っているが故に、いつの時代でも学生にとっては売り手市場である。極論すれば、入りたいと思えばどこにでも入れる』
著者は就職活動の早期化を呼びかける。私もこれに関して同感だ。なるべく早い時期から、「社会性」を養うため、インターンシップ(職業体験型)やオープンセミナー、会社説明会に参加する機会を学生に与えるべきだ。大学側と企業側の歩み寄りも大事だ。理系の研究室では企業と一緒に研究開発することがあると思うが、企業人(社会人)をどんどん授業に呼ぶべきだ。著者の言葉を少し長くなるが、借りよう。
『「早期化」が学業に悪影響があるとは考えにくい。(中略)。むしろ逆に将来に対する学生の意識の高まりが、「学ぶ」ことへの興味・関心を高め、学業にもプラスに働く面が強いと考える。もっと言えば、大学一年生からこのような活動をスタートすれば、学業が忙しい時期には学業に集中して、落ち着いたところで、またキャリアについて考える活動をするということもできる。早期化を抑制すると、就職活動期間が短くなってしまい、結果、その期間は学業をおろそかにせざるを得ないという状況に陥ってしまう可能性が高い』
『早い段階からキャリアを意識し、業界や仕事、企業について知ることができる「オープンセミナー」で進路に対する意識を深めることは、決してマイナスではない。むしろ学生が広く社会と触れ合い、大学とは異質の人々、異なる価値観の世界とコミュニケーションして、「社会化」することは、大いに意味があることだ』
さて、本では、企業の「質の高い人材」を採用するための採用活動の施策についても色々と提案がなされているのだが、ここでは割愛させて頂きます。
『「採用人数」と「求める人物像」と「会社の実力」によって、最適な採用戦略と戦術がある。現在の就職活動パターンの問題点を解決するためには、大学のキャリア教育の充実、学生の意識改革、企業の採用プロセスの柔軟化をセットで考えていかなければならない』
(「就活廃止論」佐藤孝治著、PHP新書)