9.11.2011

小さな会社は人事評価制度で人を育てなさい!(中経出版)

ボランティアで勉強を教えている高校1年の男に中国と日本の良いところ、悪いところを聞いた。日本の良いところは福祉(年金や医療保険)、人がやさしい(接客サービスや道順を教えてくれる)ところ。悪いところは、人と人との距離が遠いとこと、物価が高いことだった。
日本という国家が「良い」国家であるに越したことはない。また、会社にしても、各々の会社が「良い」会社であるに越したことはない。では、良い会社とはどんな会社なのか。
そのことを考えるのに、「小さな会社は人事評価制度で人を育てなさい!(山元浩二著、中経出版・2010年7月)」は、私に新たな視点を持たせた。社員と会社を成長させたい、中小企業のための人事評価制度運用の教科書というキャッチコピーがついているが、その通りの本であると思った。要点を一部抜粋してみた。


第1章 今、中小企業の成長のために必要なもの
□ヒトへの投資を行わないと会社の成長には限界がある
□人事評価制度は、継続的に社員を育成する仕組みであり、人材育成を通して、経営目標を達成することが本来の目的
□伸びる中小企業の3つの条件
・ビジョンが明確であること
・女性管理職が活躍していること
・人材育成の仕組みがあること
□評価を伝えないことが生産性を低下させる
人間は不安を抱えたままでは持っている力を100%発揮できない。不安を抱えた社員に対して、評価をわかりやく具体的に示すことが必要。さらに、会社にたいする貢献度をあげていくにはどうしたらよいかを教えてあげるのが人事評価制度。
□中小企業の成長を阻害する3つの要因(成長を阻むのは「ヒトを育てる」という視点の欠如)
・ヒト・モノ・カネの順番になっていない
・明確にリーダーに対して、人材育成という役割を求め、そのための仕組みづくりと効果測定を行っていない
・社長が自分の仕事や技術を手放そうとしない

第2章 間違いだらけの人事制度の常識
□人事評価制度の間違った常識
・賃金(昇給や賞与)を決めることではない
・フィードバック面談の目的は評価結果を伝えることではない。成長支援をすることであり、育成面談と言い改めることができる。
・評価者研修をいくら行っても評価者間の判断のバラツキを解消することはできない。

第3章 ビジョン実現型人事評価制度を導入しよう!
□人事評価制度構築にはその前提となる経営計画書が必要
経営計画書の3つの目的
・会社の将来を社員と共有するため
・会社の発展のため
・会社の価値を上げるため
経営計画書(ビジョン実現シート)とは、
①経営理念 ②基本方針/経営姿勢 ③行動理念
④ビジョン ⑤事業計画 ⑥経営戦略
⑦現状の人材レベル ⑧5年後の社員人材像
⑨ギャップを埋めるための課題 ⑩人事理念
⑪プロジェクト・コンセプト

第4章 ビジョン実現シートを作成する
①経営理念を定める
経営理念を作成する方法
ステップ1 他社の経営理念を数多く見る
ステップ2 自分の思いをできるだけ多く書き出す
ステップ3 できるだけシンプルにまとめる
ステップ4 一度作成した案を昇華させる
ステップ5 10年先使えるかどうか考え、決定する
②基本方針/経営姿勢を考える
・お客様に対する姿勢(方向性・考え方)を明確にする
・商品に対する姿勢(方向・考え方)を明確にする
・社員に対する姿勢(方向・考え方)を明確にする
・地域や経済社会に対する姿勢(方向性・考え方)を明確にする
・環境や社会的責任に対する姿勢(方向性・考え方)を明確にする
③行動理念を定める
行動理念は5~10項目、それぞれの表現を一文でまとめる。
「基本方針/経営姿勢」の一つひとつに「~するにはどうすればよいか」と問いかけながら、作成する。
④ビジョン(将来像)を明確にする
ビジョンは2種類設定する
・定量ビジョン:「規模(売上高)」、「収益性(経常利益、営業利益、各利益率)」、「生産性(売上高/1人当たり、粗利益/1人当たり、経常利益/1人当たり)」
3つのうち、どれを一番最重視して経営していくのかを決める
・定性ビジョン:一定年数後の状態を表現するもの
⑤5年後(3年後)までの数値計画「事業計画」を明確にする
⑥「経営戦略」は3つの視点、8つのカテゴリーから考える
3つの視点
・顧客観:顧客からメリット、強みとなり、期待を上回るものとなっているかどうか
・競観:競争相手と比べて優れたものか、自社を選んでもらえるレベルか
・主観:自社から見て市場に通用するものか
8つのカテゴリー
・顧客戦略:顧客ターゲットや顧客管理、既存客育成、商会の仕組みなどの仕掛け、仕組みを明確化する
・商品戦略:商品開発や品質向上の手法などを明確にする
・営業戦略:営業やマーケティングの仕組み、仕掛けを明確化する
・人材戦略:人材育成や教育に対する取り組みを明確化する
・地域戦略:重点エリアや自社ターゲットエリアを明確にする
・ブランド戦略:ブランディングに関する考え方や仕掛けを明確にする
・財務戦略:資金繰りや財務・会計の仕組みに関して明確化する
・生産戦略(製造業):生産部門に必要な改善・取り組みを明確化する
⑦「現在の人材レベル」を把握する
⑧「5年後の社員人材像」を具体化する
⑨「ギャップを埋めるための課題」を書き出す
⑩「人事理念」を定める。
⑪「プロジェクト・コンセプト」を明確にする
人事評価制度改革プロジェクト自体のゴールを設定

第5章 ビジョン実現型評価基準を作成する
□経営ビジョン会議で目的と意義を浸透させる
・このプロジェクトが会社の重要な経営改革である、それに社長が本気なって取り組むこと
・人事評価制度の目的は会社の経営目標を実現すること。そのための人材育成であること
・プロジェクトを成功させるためには社員全員の協力が必要であること
□評価基準のたたき台を作成する
評価基準を設計し、ウェイト配分を考える
・業績項目:業績プロセス項目を必ず盛り込む
・成果項目:2つの要素で構成①業績・数値に直結する重要な仕事②会社がそれぞれの職種に求める重要な役割
・能力項目:具体的にはスケジュール管理力、情報収集力、報告・連絡・相談、知識・資格、人材育成力
・情意項目:積極性やチームワークへの貢献、自ら学ぶ姿勢など、社長の「自社の理念を実現するためには、こういう姿勢、考え方で仕事に臨んでほしい」という社員に対する思いを形にした評価項目
※基本の考え方は、事務・成果項目のウェイトは、下位グレードの社員の方が小さく、上位グレードにいくほど大きくなる。一方、能力・情意項目については、上位グレードにいくほど、ウェイトを小さくしていく。