1.10.2012

柳井正の希望を持とう(朝日新書)

「いい会社(上司)とは何なのか」、職業柄かもしれないが、このことについて改めて考えていて、文章にまとめようと今、試みている。
このことを考える上で、経営者の視点、労働者の視点、一般(ユーザー、お客様)の視点、国や地域の視点、それぞれの視点が必要になってくる。いずれかの視点がかけてしまえば、それは公平とは言えなくなる。時代背景、文化的背景、価値観の違い、色々ありそうだが、うまくまとめることができれば、そのうち公開したい。

さて、「柳井正の希望を持とう(柳井正著、朝日新書)」を本屋で見つけて、面白そうだったので、一気に読んだ。面白い内容だったら、周りの人に話さずにはいられなくなる性格なので、この本も例外なく、引用して紹介させていただきます。


・日常の仕事だけに埋没するな
普通の人間は日常生活に入ればそのなかに埋没してしまい、日々を送ることで精いっぱいになってしまう。単調そのものの日々を送るなかで、劇的に変わることは簡単ではない。しかし、そうであっても、自分自身を変えていき、どうやって成長していくかを真剣に考える。ほんとうに成長を考えて、準備をしている人間にしか未来はやってこない。(24~25P)

・日本企業が生き残るふたつの条件
どういう業種であれ、日本企業に必要なこととは、「海外へ出ていくこと」と「新商品の開発」だ。(25~27P)

・開国の決断を
TPPに参加したとたんに、外国産の食糧が雪崩のようにどんどん入ってきて、日本の農業が壊滅するなんてことは論理の飛躍であり、想像力が豊かすぎる。農業もひとつの産業だ。これを契機に、保護政策から脱却し、これまで以上に輸出を視野に入れ、新しい産業として自立し、生まれ変わる好機ととらえたほうがよいのではないか。(40~41P)

・日本人のDNAを大切にする
世界で勝負しようと思ったら、自分たちのDNAに磨きをかけていうことが大切だ。「組織の一員として仕事をする忠誠心」「勤勉さ」「清潔で、きれい好き」「異質のものを受け入れて自分のものにする包容力」。(56~57P)

・自分自身を見つめる
従業員が辞めていった時、自分自身の性格について、いろいろと考えをめぐらせた。長所は何か、短所はどこか、と。長所は正直であること、正義感があること、物事をストレートに言うこと、そして、自分自身を客観的に見ることができることだろう。また、考えてみれば、短所はいずれも長所の裏返しだとわかった。ストレートに言うとは、つまり、遠慮がないから、相手にしてみれば厳しい意見に聞こえてしまう。正義感もそうだ。言わなくてもいいことまでも指摘したくなるから、相手は嫌な気分になる。客観的に見る性質は、他人にとってみれば何事にも距離を置く冷淡な人間と感じるかもしれない。ただ、長所、短所とはおそらくそういったものを指すのではないか。(62~64P)

・さまざまな経営書から学んだこと
大切なことは活字を追いながら、経営を考えることだ。「本を読む」とは書いた人と対話することだと思う。本の内容をいくら暗記しても、そこに大きな意味はない。書いた人の基本的な考え方は何なのか、書いた人はこのように言っているけれど、自分だったらどうするか、どう判断するか、どう経営していくかをじっと考えながら本を読んで行った。(70~71P)

・「売れない経験」が人を成長させる
当社に限らず、売れる現場ばかりを経験した人は、一度は売れない体験をしたほうがいいだろう。売ることの大変さが身に沁みるはずだ。そして、売ることとは常に新鮮な提案をすること、変わることにある。また、売れている店の店長はおごることなく、さらに努力を続けること。手を抜かずに日々の努力をすることだけが現場の士気を高め、店の力を底上げしていくことになる。店長が常に新規の仕事に挑戦していないと、現場の仕事は次第にマンネリ化していく。(102~103P) 

・アメリカ型雇用か日本型雇用か
ひところ、終身雇用の日本型雇用が時代遅れとみなされ、より良い条件の仕事を求めて会社を渡り歩くアメリカ型の転職志向が強まると喧伝されていたけれども、私は当時から賛成できなかた。どうしてか。それは長期的にみると、ジョブ・ホッピングに余念がない社員の集合体では、プロフェッショナルな人材が蓄積しにくいと思うからだ。情報の流出といったリスク、社内の人間関係のトラブルだけでなく、会社を成長させていく、理念やノウハウを知る、つまり財産となる人材が育ちにくい。そして、短期の視点しか持てない人は会社の理念よりも目先の利益追求に走る傾向にある。それでは会社にとって得とは言えない。(155~156P)
※ジョブホッピング:ひとつの会社に長期的に勤務することなく、転職を繰り返して複数の会社を転々とすること。

・「鬼」の顔の下に「仏」の顔を併せ持つ
当社の管理職を見渡しても、合格点を与えられるのは2割から3割しかいない。それ以外の人はまだまだ、評価に値しない。そして、残りの7、8割の人たちの下にいる部下はかわいそうだと感じている。部下が自分の力を出し切れていないように見えるのだ、部下の能力を生かすことができないのは明らかに上司の責任だろう。上司、マネージャーとは部下を使って一定の成果を出す。そして、自らも部下も成長し、会社を伸ばしていく。そういう人が上司であり、そのためには「仏」と「鬼」のふたつの顔をもっていなくてはならない。部下の心のスイッチを入れて、部署のなかで力が発揮できるようにアドバイスをする。「あなたには、こういうことをお願いします」「今、あなたのことはこう評価しています」「将来は、こういうことをやってほしい」緊密なコミュニケーションを重ねて指導していくのが上司だ。上司は自分にも厳しく、部下にも厳しくないといけない。そうでなければ、チームとして仕事で成果を上げていくことなど不可能である。自分に甘く、部下に厳しい人間は結構いるので注意が必要だ。人間は往々にして、人の粗は見えるし、自分の悪いところは目に入ってこないからだ。だから自分にも部下にも厳しく、と心がける。ただし、いつも「鬼」の顔をしていたのでは部下はついて来ないし、成長しない。部下が良い仕事をしたり、成長した時は、「仏」の顔でほめる。あるいは、「鬼」の顔の下に、部下の仕事ぶりや体調、家庭の事情を気遣うといった「仏」の顔を持っていないといけないのだ。部下の一人ひとりが「この会社で仕事をしてよかった」と心から思うような状況に持っていく努力を上司は続けないといけない。(157~160P)