10.03.2010

★くたばれ!就職氷河期(角川SSC新書)


「くたばれ就職氷河期(常見陽平著、角川SSC新書・2010年9月)」はとても面白かった。就職活動・採用活動に関する事実を述べたうえで、どうあるべきか。どうあるべきか、という点においても、分かりやすく、かつ現実的だ。

著者が冒頭に述べていることは3つ
◆「就職氷河期再来」ではなく、企業と学生の間に致命的な溝がある「就活断層時代」なのである。
「就活断層時代」・・・大学名による内定、ターゲット校学生の壮絶な奪い合い
◇リクナビ、マイナビなどの就職ナビが、実は就活断層をますます広げ、学生と企業が出会えない構造になっている。
◆「新卒一括採用」や就活の長期化・早期化に関する批判が高まっている。例えば、「新卒一括採用があるから、就職できない若者が増えている」、「就活のせいで学生が勉強に集中できない」「学生生活が就活だけで終わってしまう」。これらの批判の内容が的外れ、解決策として提案されていることが、実は学生救済につながらない。


学生にとって参考になる箇所
<就活が上手くいく学生の10の法則>
1.働く覚悟がある
2.学生生活が充実している
3.「異なる者」との接点がある
4.情報源が広く、深い
5.企業、仕事に対する具体的なイメージを持っている
6.ミーハー感覚で仕事を選んでいない
7.自分の言葉で自分を語れる
8.質問力がある
9.適切な就活対策をしている
10.保護者との距離がちょうどいい

<企業を把握する6つの視点>
1.ビジョン
どんなビジョンを掲げているのか?
そのビジョンに共感できるか?
そのビジョンは浸透していそうか?
2.戦略・事業領域:どんな事業領域で勝負しようとしているか?そこでそんな戦略をとっているのか?
3.マーケティング:どんな商品・サービスを、どんな相手にどうやって売っているか?
4.人と組織
どのような組織構成になっているか。
どんな組織風土なのか。
求められる能力・資質は何か?
どんな人材が活躍しているか。
5.財務:売上、利益、負債の推移など。株価の推移と考えられる理由など。
6.歴史:どのような歴史をたどってきているか。歴史上の分岐点は何か。どんな意思決定のクセがあるか。今はどのステージにいるのか。

<職場としてどうなのかを把握する4つの視点>
1.企業の特徴:社長はどんな人か。創立して何年か。どんな事業をしているのか。業績の推移はどうか。平均年齢は。顧客企業はどのような業界・規模の企業か。
2.仕事の中身:任される仕事の中身はどうか。求められる力は何か。キャリアパスはどうなっているか。どんな力が身につくか。
3.組織風土の特徴:社長との距離はどうか。男女比はどうなっているか。男女別の管理職比率はどうなっているか。どんな空気の会社か。何を大切にしているか。どんな人が評価されるか。
4.待遇:モデル賃金はどうなっているか。30代の平均年収はどうなっているか。各種手当はどうなっているか。教育・研修の制度はどうなっているか。勤務地はどこか。


■最終章での作者の言葉で私が気になった箇所

そもそも大学生の数は増えている。厳しい現実を言うならば、GDPの成長がない中、ましてや円高や国内市場の縮小などで海外シフトが続く中、「大学を出たら、誰でも、国内で、大企業で、ホワイトカラーで働ける」と思うこと自体が甘い。(163P)

就活=学業を阻害すると決めつけるのもいかがなものと思うのだ。逆に、メリハリがつけられず、ダラダラと就活だけの学生生活になってしまう学生は、カワイソウだと思う一方で、やり方が悪いのではないかと思ってしまうこともある。そうならないためにも、実は大学では就活に限らず、タイムマネジメントや優先順位付けなど、ビジネスの基礎スキルを教えるべきではないかと考えている。(168‐169P)

「就活により学業が阻害される」と言われると、企業の人事担当者の立場で言うならば表向きは「すみません」と言うしかない。しかし、あえて暴言を言わせて頂くならば、「では、大学の勉強は立派なものなのか?」ということをぜひ、問いかけたい。自らの教育の中身を棚にあげて、就活だけを悪者扱いにするのは、逆にエゴとしか言いようがない。(170P)

■就活改革論の著者の検証
①「卒業後に就活をすべきだ」
新卒一括採用があるからこそ、そこそこの能力でも、大学で専門知識を学んでいなくても、企業に採用される可能性があるということも見逃してはいけない。既卒者に新卒と同じ権利を認めると、今度は第二新卒層との競合が起きる。単純に卒業後の就活を認めることは、問題を先送りするだけであり、実は弱者救済につながらない。
②「就職協定を復活すべきだ」
就職協定復活には反対である。就職協定は常に破られ続ける歴史を歩んでいる。礼賛するのは大学の先生が中心であり、要するに「就活をしたことがない人」の意見である。
③「新卒一括採用は日本だけで、国際的にもおかしい」
結論から言うと、この意見自体がおかしい。たしかに、日本とまったく同じやり方の国はない。ただ結構似ているのである。日本の新卒一括採用は、効率的に優秀な人材を獲得できることや、人材育成を同時期に行えることから逆に注目されている部分もある。本当に日本が異常なのは、大学に入りやすく、卒業しやすいということ。OECDの調査では日本の中退者の学業レベルは最低水準にある。

■就活改革に向けた提言 企業編(177P~184P)
1.採用をガラス張りにせよ
企業は毎年、どの大学、学部から何人、どの職種で採用したかを公に発表する。
2.安易なターゲット設定をやめろ
いつの間にか求める人物像が高度化しすぎて「神様スペック」になっていないだろうか?「見栄えのよい採用」をやめ、「育てたい人材」、あるいは組織を活性化させる「扱いづらい人材」を採り、育てる勇気を期待したい。
3.採用を効率化するな
そもそも採用とは、「来たい」人間よりも「欲しい」人間を採る行為である。別に志望動機を聞かなくても採用上困らない。学生の負担を減らすために、志望動機を聞かない選考をするべきではないか。
4.採用時期、資格は「自由化」する
おそらく採用時期は各社により分散していくだろう。外資系やベンチャーはおそらく早期採用をやめない。就活のやり方によっては、ますますの早期化・長期化を招くものの、やりたい時期に就活する、ゆっくり進路を考えるという世界観に移行する元年になりそうだ。学生にはどの時期に集中するかのペース配分が求められるようになる。そして、企業のほうが実は大変になる。採用力アップはますます求められるようになる。

■就活改革に向けた提言 大学編(184~188P)
1.大学はミッションを再定義せよ
全国には778の大学がある。それぞれの特色をより打ち出さないと生き残れないはずなのだが、定員割れしていて、偏差値が低い大学も理念だけは「プチ東大」のようなことを謳っている。もちろん、実態を伴っていないし、具体的な努力もしていない。それよりも、「地元の中堅・中小企業で活躍する人材を育成する」「地元の流通・サービス業のプロを育成する」「営業担当者、販売員など、とにかく売れる人材を育成する」などの具体的な理念を打ち出したほうが、学生も企業も教職員も幸せになれるのではないだろうか。
2.大学をガラス張りにせよ
どの企業に何人入社したかを毎年開示する。
3.企業と大学、地域の連係を強化する

■就活改革に向けた提言 就職情報会社編(188~191P)
1.就職ナビは採用効果をガラス張りにせよ
企業は効果測定を徹底し、就職ナビから何人採用できたのかを就職情報会社に報告する。
2.人気企業ランキングを多様化せよ
社会人が選ぶランキングや、BtoB企業限定ランキングなど就職後の追跡調査なども開示するべきだ